1668回 会長挨拶

みなさんこんにちは

さて、先週の木曜日、7月7日の七夕の日でありますが、大西卓也宇宙飛行士を乗せたロシアのソユーズ宇宙船が打ち上げられました。日本人の宇宙滞在は11人目となります。皆さんは、日本ではじめて宇宙へいったのは誰か、ご存知でしょうか。普通の答えは元TBS社員の秋山豊寛さんなんですが、私の勝手な見解ですが、かぐや姫ではないか、と思っております。そのかぐや姫が主人公の「竹取物語」では、かぐや姫は月へ帰る時、不老不死の薬を帝に献上しています。不老不死の薬は、古今東西誰もが欲しい薬ですが、いよいよ現実味をおびてきました。

動物実験で、老化を抑制する効果が判明しつつある長寿物質、NMNを人間に投与して安全性や効果を調べる臨床研究を、慶応大学とアメリカのワシントン大学が計画しているという新聞の記事がありました。

NMNというのは、ビタミンB3の一種で、ニコチンアミドモノヌクレオチドの略で、長寿に関係する遺伝子であるサーチュイン遺伝子を活性化させる働きがあるといわれています。私は医師ではないので、全くわかりませんので、詳しいことを知りたい方は、池田先生に聞いて頂くか、ネットで調べてみて下さい。

生後22ヶ月(人間では60歳)のマウスにNMNを1週間投与したら、細胞が生後6ヶ月(人間では20歳)の状態になったということで、60歳が20歳に若返るという、まさに夢のような物質であります。池田先生の健康診断で血管年齢90歳と宣告された私としては、どうしても手に入れたい薬ですが、ようやく人間の臨床研究が始まろうとしているところであります。

2011年にワシントン大学の今井真一郎教授が、マウスの実験で、糖尿病に劇的な治療効果を上げたNMNの存在を世界ではじめて報告しました。それからのちに、その物質は、糖尿病に限らず、さまざまな臓器や目、さらには能などの老化に伴う症状を改善し、若返りの効果があることが判明してきました。

このNMNという物質は、もともと私たち全員が体内に持っている物質で、人間は50台後半から60台のあたりで、この物質を作る能力が落ちてくるので、その少し前からNMNを摂取し補充するのがよいそうであります。

ただ、万能の薬ではありません。健康な期間を長くすることはできますが、寿命を何倍にも飛躍的に増やしたり、不老不死が望めたり、ということはありえません。

今井教授は、「お年寄りになっても、より健康的で活発な時間を過ごし、人生を充実させるために使って頂けると思っています。」と語っています。今井教授にとって、「人間が死から免れること」が研究の目標ではありませんし、老化という現象を完全になくせるとも思っていません。今井教授が、研究の究極の目標にしているのは、「人間が充実した、健康かつ幸せな人生を送ること」であります。

今井教授は次のように語っています。「ニーチェは、『偶像の黄昏』という作品の中で、『人間は死ぬべき時には死ぬべきだ』と言っています。ある意味においては、いずれ人生を全うして、この世から去る、ということは、重要なのではないでしょうか。そのときに大事なのは、自分の人生が充実していたかであり、自分が幸せであったかなのだと思います。」今井教授の哲学であります。

さて、かぐや姫の話にもどりますが、かぐや姫から不老不死の薬を贈られた帝は、どうしたでしょうか。実は、服用せずに、薬を焼き捨てました。「姫に逢うこともかなわず、悲しみに沈むわが身には無用である」といって焼き捨ててしまいました。「前途に、生きる希望が満ちあふれてこその長寿だ」と、物語の作者は言いたかったのかもしれません。「竹取物語」は、成立年も作者もわからず、平安時代初期の日本最古の物語と伝えられておりますが、今井教授の哲学に通じるものがあるのではないか、と思います。

そんなことで、本日の会長挨拶を終わりにしたいと思います。


Last Update:2016年09月14日